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実験

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 十日ほど前のことであるが、縁壱は酷い失敗をした。兄を傷付けてしまった。  その日は兄に触れるのが数日ぶりで、飢えのあまりについ焦って事を急いてしまったのだ。十分に解さぬうちに突き立ててしまった剛直は、兄の柔い処を傷付けてしまったようだが、痛い、抜いてくれ、と苦しげに喘ぐ兄の声はまるで甘い嬌声のようで。己の欲を吐き出すまで止められず、やっと身体を離したときには、兄の目にはうっすらと涙が浮かび、流麗な眉根は苦しげに顰められていた。引き抜いた己自身には僅かではあったが血がついていて、さしもの縁壱も焦り、兄に詫び、急いで手当をした。  当然その日はそれで終わり。それから数日は傷に障らぬよう、兄を労り過ごした。  縁壱は激しく自己嫌悪に陥っていた。兄を傷つけた事を済まなく思うのは勿論であるが、それでいて、実はあの時の兄の様子に酷く興奮してしまった己を恥じていたのだ。  痛いと泣いて嫌がり血を流すその姿は、まるで未通女の破瓜の様で、清い兄を己が染めてしまったような悦びを感じていた。手当をするために秘所を拭えば、己の残滓に混じる紅い血は淫靡でありながら兄を美しく彩った。なんと愚かな、なんと恥ずべきことか。縁壱は己を嫌悪した。  だから、二度とあんなことはすまい、兄を傷つけるようなことはすまいと、心に誓った。  そして今夜。久方ぶりに兄に触れることができる。縁壱は先のしでかしを繰り返さぬよう、慎重に兄に触れた。  優しく触れるだけの口づけをし、そのまま小鳥が花の蜜を啄むように、ちゅ、ちゅ、と軽い口づけを兄の肌に落とす。その度にびくり、と怯えたように兄の身体が震え、そっと顔容を覗き見れば、耐えるようにぎゅっと目を閉じ、唇を噛み締めていた。ああ、怖がらないでください、可愛いひと。もう、貴方を傷つけることはしないから。  縁壱は両の掌で包み込むように兄の頬に触れ、唇を重ねた。軽く開かれた兄の唇からは、おずおずと舌が差し出され、招くように縁壱の舌に触れる。兄の許しを得て深く舌を差し入れ、兄を貪った。激しい舌遣いに、びくりと兄の腰がはね、背に回した手が爪をたてる。怯えた仔猫の様だ。ぴり、と皮膚の裂ける痛みすら甘い刺激になる。  唇を解放し、頬を薄紅に染めぼうっと縁壱を見つめる兄の膝を割り開くと、あっ、と小さく悲鳴をあげ、顔を反らした。羞恥に震える身体のその中心は既に歓びの兆しを見せていて、先端から滲む蜜が朝露のような球を作っている。それを塗り伸ばすように指先で擦れば、ひっ、と上擦った声が。  そして。 「縁壱、よりいち……もう……」  消え入るような微かな声が、縁壱を誘った。  もうさっさとやることやってくれ……  そう、巌勝は言いたかった。一体どれほど焦らすつもりなのかと。  十日前、目合いの最中に巌勝を傷付けて以来、縁壱は兄を壊れ物の様に扱っている。まるで御簾越しの姫でも娶ったかのように。血を流させた罪悪感から来るのだろうとは思うが、何を今更。  巌勝はもう既に何度となく、縁壱に抱かれている。余程焦って手順を怠るのでなければ、傷を負うこともないだろう。だが、今の縁壱は慎重すぎだ。  だいたい、くだんの目合いの時も、まだ慣らしきらぬうちに陽物を突き入れられた巌勝は初めは痛みのために快感を享受できずにいた。それでもやがて痛みも薄れ、やっと律動に身を委ねることができるようになったと思ったら。先に縁壱が果て、巌勝の傷に気が付き騒ぎたて、挙げ句にその日はそれで終わり。  巌勝にしてみれば、中途半端に弄られて入れられて達せずに終わったのだ。  巌勝は、既に後孔での快感を知っている。胎の奥が疼く切なさを知っている。全て縁壱が教えたことだ。  自分だけでは届かない、身体の奥に燻る快感の火種を消せるのは縁壱だけなのに。  十日待たされただけでも限界、その上いざ再び褥に入っても、くすぐったいような優しい愛撫しかしてくれない。  もっと、激しくていい。もっと、荒々しくていい。もっと、痛くてもかまわないから。 「よりいち、よりいち、」  早く、お前を  だが、巌勝は縁壱にねだれず、唇を噛みしめる。  軟膏をたっぷりつけた縁壱の指が、しつこいくらいにくるくると後孔を撫でる。それは淫靡な予感だけを刺激して、一向に中を解してくれない。我知らず、誘うように腰が揺れていた。 「兄上、逃げなくて良いんです。無体なことはしませんから」  何を勘違いしているのか、縁壱が宥めるように優しい声色で言う。  違う。逃げてるんじゃない。  早く、お前を 「あぅっ」  つぷ、と、ようやく指先が窄まりを押し広げてくれた。もう既にふやけてしまっているような入り口は難なく指を受け入れ、いや寧ろ喰むようにヒクヒクと蠕動する。ごくりと、縁壱が喉を鳴らす音が聞こえた。  入れてくれ、そのまま、奥まで。もっと、指を増やして。  だが、それはすぐに逃げるように引っ込められ、やっと望みの物を与えられたはずの秘所が物欲し気にひくりと震えた。 「や、なんでっ」         

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