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和製悪牧 ブドウ狩り篇

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 日曜礼拝の後、見覚えない女性に声を掛けられた。 「ユメくんさんですよね?」  ユメくんさん……。 「あ、保護施設のSNS見られてるんですか?」  なるべく愛想よく答える。 「そうなんです! 犬を飼いたくてずっと保護施設のアカウントをフォローしてたんですけど、そこでユメくんさんが牧師さんだって知って、教会のアカウントもフォローして、それで今日、初めて伺ったんです」  女性が勢いよく喋る。 「すごーい、本物だあ。あ、あの、写真一緒にいいですか?」  は!?  「写真、ですか?」  一緒に? いわゆるツーショット的な?  「お兄ちゃん、愛餐の準備しないと」  背後から声を掛けられてびくっとする。 「あ、弟さん?」  女性が目をしばたいておれとトゥイークを交互に見る。 「うちは、私も弟も養子なので」 「あ、ですよね。ブログも拝見して、あの、良かったら弟さんも一緒に写真を」 「いえ! 弟は未成年ですので。私なら大丈夫ですんで」  今トゥイークは外殻を被っているから鏡にも写真にも映るけど、短期間で体がでかくなってることなんかが記録に残るとややこしい。さっさと切り上げてしまおうと思って言うと 「じゃあボク撮りますよ」  とにっこり笑ってトゥイークが女性に手を向ける。 「あ、じゃあ」  気圧されたように女性がトゥイークにスマホを渡す。とりあえず密着して自撮り2ショットみたいな事態は避けられてよかった。 「じゃあ撮りまーす。さーん、にぃー、いち」  カシャッと機械音がして、トゥイークがどうぞと女性にスマホを返す。 「わあ、ありがとうございます」 「あっと、すみません、その、SNSとかには上げないで頂けますか? 今まで教会員さんとこういう形で一緒に撮ったことはないので」  教会のイベントごとのスナップ写真とか集合写真とかはあるけど、二人で撮る、を目的にしたようなのはない。自惚れるわけじゃないけど、今後、こういうのが増えても困る。 「あ、わかりました。はい、無理言ってすみません」  ちょっと変な空気になったところで 「今日は愛餐も参加されるんですか?」  とトゥイークが女性に訊ねる。日曜礼拝の後の会食で、昔からの教会員の人はよく参加するけど。 「あ、今日は、いえ、家族が家で待っているので、またの機会に」  少し退いた感じになって女性が言う。 「今度は是非、ご家族一緒にいらっしゃってください」  屈託のない笑顔でトゥイークが言う。 「そうですね、子どもたちの日曜学校も楽しそうだし、今度は誘ってみます!」  そそくさ、という態で女性はおれたちから離れていった。  周りの人たちも愛餐の部屋に移動して人気がなくなったところで、 「はーん、あれ子持ちってことかぁ?」  とトゥイークが呆れたように顔を歪める。それがなんかちょっと面白くて笑ってしまう。 「慌てて牽制に来たのに拍子抜けしたか?」  もうそれほど身長差のないトゥイークの耳に口を寄せて言うと、は? とトゥイークが身を退く。 「そっちがなんかまごまごして困ってそうだから助けてあげただけだけど?」 「確かに助かったよ。保護施設のSNSから興味持って教会に来てくれるのはありがたいけど、おれを目当てにされてもな」 「はー、色男のセリフじゃん」  少し鼻にしわを寄せてトゥイークが言う。そういう表情、おれにしか見せないもんなあ、と思うとちょっとかわいいなって思う。 「色男だろ?」  首を傾げると、トゥイークはさらに眉間にしわを寄せる。 「ほら、愛餐の準備しに行くんだから、いつもみたいにかわいい顔しろよ」  トゥイークの背中を叩いて、先に歩き出す。なんつーか、そういうセリフ言った後、おれだってどんな顔したらいいかわからん。  教会の炊事場で、母と、何人かの教会員さんが愛餐に持ち寄った食べ物を温めなおしたり盛りつけたりしている。 「ユメくん、家庭菜園どう? 順調?」  畑もやってる教会員さんに声をかけられる。 「あ、はい、でもキュウリもトマトもそろそろ終わりますね」  こっちにいた高校くらいまでとか、大学出て戻ってきた最初の方とか、こういう手伝いしてても大人の教会員さんと話すことってあんまりなかったけど、トゥイークのための家庭菜園始めてから、気にかけてもらってアドバイスもらったりして、どっかであった疎外感みたいなものが減ったと思う。  そういう意味でもやっぱり、おれはトゥイークを悪いものとは思えずにいる。  愛餐の間はトゥイークもいつも通り愛想よくしていた。お行儀良くしてるのをほめてやりたい。でも嫌味に取られるかも知れない。なんかじれったいなあ。  愛餐の後は、父が個別の相談を受けたりしている間に母とおれたちで片付けをするけど、トゥイークは洗い物からは遠ざかっている。  この前、ちょっとひっかかった。トゥイークが、水が苦手だから、クレイグは、トゥイークの魂を、深い水の底にやったんじゃないかって……。  海……、つってもなああ。アメリカ? 太平洋? 大西洋? クレイグはイギリスから行ったんだから、大西洋側だよな。めっちゃ広いが? つか遠い。  トゥイークの魂、見つけたいんだろうか、おれ。  ここのところ何回も考えてる。  トゥイークが四百年、探してたものだから、返してやりたい気持ちはある。でも、天使であるウェンディは返して欲しくはなさそうだし、だったら人類にとってもあんまり良くない事なのかもしれないって気もする。  ……というのは建前で、一番嫌なのは、魂を返したことでおれが用済みになって、トゥイークがおれから離れて行くことなんだよなああああ。  最近、なるべく、好きだって気持ちを伝えようとはしてるんだけどな……。  片付けが終わって、本日の業務から解放される。明日は月曜で休みだ。そんで、トゥイークの中学も夏休みってことで、休みが合うのだ。  普段、トゥイークが休みの土日はおれは仕事だし、おれが休みの月曜は、こいつは学校に行ってることになってて、姿を消してそばには居るけど、家で両親のいる前でや、外で人目があるとこではしゃべることすらできない。  ただ、夏休みだからって、ずっと外殻を纏って家にいるのは消耗するらしく、図書館で勉強するだの、友だちと遊びに行くだのと理由を付けて、家を出たフリで獣の姿に戻っている。  だから、おれがトゥイークとどっか遊びに行ってそのとき思ったことをその場で普通にしゃべったりしたいっていう希望は、トゥイークに無理をさせるってことになる。  でもまあ、おれもそこんとこは考えている。  牧師館に引き揚げてから、父に明日、車を使っていいか尋ねる。 「いいよ。どこか出かけるの?」 「明日、トゥイークをブドウ狩りに連れて行ってやろうと思って」 「は?」  少し離れて聞いていたトゥイークが声を上げる。 「いいね、楽しそうだね。もちろん車を使っていいよ」  父がにこにこして請け負ってくれる。家族全員で、とか言われたらそれはそれで、と覚悟はしていたけど、そうはならなかったようで少しほっとした。 「お兄ちゃん、聞いてないよ」  トゥイークがおれのシャツの背中を引っ張る。 「予定ないだろ?」  実質、うちの家族としか付き合いないんだから。 「う、ないけど」 「いいじゃないか、ユメも、トゥイークと休みが重なるのが滅多にないから、遊びたいんだろう」  父が取りなすように言ってくれる。まさにその通りなのだが、改めて父親から言われるとこっぱずかしい。 「わかったよ、じゃあ、明日はお兄ちゃんとボクでお出かけだね」  拗ねたような照れたような顔でトゥイークが肩をすくめる。なんだ、かわいいな。 「いいわねえ。夏の思い出ねー」  母も嬉しそうにしている。  おれとトリシアは二人だけでどっかに出かけた、みたいな記憶はない。特に仲が悪かったというわけでもないが、四歳差という微妙な年齢差と、男女という性差のせいで、遊びの方向性が合わなかかったというのもあって、割とドライな関係性だった。  そういう訳で、おれが「弟」を可愛がっているように見えるのが嬉しいのかもしれない。まあ、弟とはしないようなことをしているわけではあるが。  トリシアの大学も夏休みに入ったみたいだけど、バイトのシフトの関係で里帰りはもうちょっと先になると言っていた。  風呂から出て自室に戻ると、トゥイークはベッドの上であぐらをかいてこちらを睨んでいた。 「明日、どういうつもり?」 「どういうって……単純におれがおまえと出掛けたかっただけだよ」 「なんで? いつも一緒にいるじゃん」  苛立ったようにトゥイークが言う。 「一緒に居るけど、おまえ、他の人には見えないから、おれも、おまえが居ないように振舞わないといけないだろ。それが、なんていうか、地味にしんどいんだよ」  トゥイークの横に腰かけながら言う。トゥイークは、よくわからん、みたいな顔をしている。 「おまえに話したいと思ったときに話せないし、おまえに触れたいときに触れないの、不自由なんだよ」  そう言って、トゥイークの柔らかい髪に触れてみる。ひくっとトゥイークが少し顔を強張らせる。 「あなたね、なんか、この間から、ちょっと変じゃない?」  とは言っても、おれの手を振り払うとかはしないんだよな。 「変って言うか、変わってきてる自覚はあるけど、別におまえにとって悪い変化じゃないだろ」  トゥイークの少し尖った耳を指でつまんで擦る。耳たぶが赤くなってくる。 「なにか企んでるんじゃないの」  頑なにトゥイークが疑ってくる。 「ねぇって、クレイグとは違う」  そのままキスしようとしたらごつっと頭突きされた。石頭! 山羊かよ! 「クレイグとは違うって、なにか思い出したの?」  赤い目の色が更に深くなる。 「いや、具体的なことはなんも……」  それに、ついクレイグとは違う、とか言ってしまったけど、クレイグだって別に、おまえを裏切ろうと思っていたわけじゃない、と思う。けど今のこいつにそれを言って信じるだろうか。クレイグの真意はどうあれ、こいつが力を失って、四百年間彷徨っていたのは事実だ。  トゥイークはしばらく黙っておれを見つめていた。心を読もうとしてんのかな。読まれて困るようなことはない。ないよな。 「とにかくさ、明日は昔のこととか考えずに遊びたいんだよ、今のおまえと」  念を押すように言うとトゥイークは諦めたようにため息を吐いた。 「明日も一日、外殻か」  拗ねたように言ってトゥイークが丸くうずくまって寝る姿勢になる。 「寝る前に生気補充しとかなくていいのかよ」  羽根の付け根を指でなぞる。 「明日車運転するんだろ、お兄ちゃん」  トゥイークはうっとおしそうに少しだけ顔を上げる。 「ん、だから、キスだけ」  体をかがめてトゥイークの顔を覗き込む。トゥイークは、フン、と鼻息をついておれからのキスを受け入れた。始めてしまえばトゥイークも唇を開いて舌を差し出してくる。それを吸い上げて奥に引き込むのが最近のおれの好きなやり方だった。  喉の奥を軽くくすぐられて、反射で腹がぎゅっと持ち上がったところでトゥイークは舌を引き戻した。 「今日はこれくらいにしといてあげるよ」  おれのほっぺたを撫でてトゥイークが目を細める。うー、まあ明日もあるしな。 「ん、じゃあ、おやすみ」  部屋の電気を消して、ベッドに横になる。楽しみで寝れないかと思ったけど、適度に生気を吸われたせいか、わりとすぐに寝入ってしまった。    翌朝起きて、家族で朝食を食べた後に、トゥイークと二人、車で出発する。目的の観光農園までは、地図ソフトの経路案内によると下道で1時間もかからないくらいだ。  カーラジオでFMを小さい音でかける。 「車乗ってる間は元の姿になっててもいいぞ」  おれが言うとトゥイークは少し考えて、 「元の姿になったら羽根が邪魔で助手席に座れないからいい」  と言った。前にホームセンターに行ったときは羽根を出して後部座席に居た。  今日は乗ってる時間が長いから、隣に居たいってことだろうか。おれの想像の域をでないけど、まあいいだろ、ものごとを自分に都合よく解釈したって。  車に乗ってる間は、かかってたFMの番組のメッセージテーマに絡んだ話したりおれが子どもの頃に家族で遊びに行った話とかしてたら結構間が持った。  町を離れて家族で出掛けるとき、おれだけ人種が違うから、けっこうじろじろ見られたりした。  今日のおれたちってどう見えるんだろう。兄弟には見えないよな。今のトゥイークの見た目、高校生くらいか? 友だちって言うには歳が違うように見えるかな。どうだろう。ホームステイ中の学生を遊びに連れて来た年長者的な感じだろうか。  デートには見えねえんだろうな。デートって感じにしちゃうと、おれが犯罪者っぽくなる? いちゃついてるとこ人に見られたら通報されっかな。  途中から愚にもつかないことを考えてるうちに観光農園についた。  ネットで予約してたけど、ブドウ園の方はあんまり人がいなかった。まあ、盆前の平日だしな。  ブドウ棚はおれの頭の少し上くらいの高さから、段々低く傾斜して行っていた。子どもはもっと低いところで採るんだろうな。  一定の間隔で二畳分くらいのベンチが設置されて居たのでそこに荷物を置いて、受付で借りた剪定ばさみを持って食べごろのブドウを探しに行く。一度に採っていいのは一人一房で、それを食べ終わったら次のを採っていい、というルール。  採れたてを食べられるから、トゥイークにとってはなによりのご馳走になるだろうというわけだった。  道中なんだかんだ億劫そうにしていたトゥイークも、実ったブドウの房を目の前にすると、表情が明るくなった。 「どれ食べてもいいの?」 「一房ずつならな」  おれが言うと、トゥイークはわかった、と言いながらブドウ棚の下を歩き回ってブドウを吟味している。  おれはトゥイークからあんまり離れないようにしながら自分もどれ採ろうかまわりを見回す。 〈わたしはブドウの木で、あなたがたは枝です〉か。  ブドウ棚はひとつの幹から枝を広げて実をつけている。この枝を切ってしまえばその先の枝葉は当たり前に枯れて実も着かない。繋がっていることが大事なんだ。  あそこでうろうろとどの実を取るか迷ってるトゥイークを、おれは自分に繋ぎとめて置きたいって思う。  トゥイークが腕を頭上に掲げて、ブドウを一房切り取る。大事そうにそれを胸元に下ろして、こちらを見る。目が合うと少し笑って、跳ねるような足取りで寄ってくる。 「これにした。あなたは? まだ選んでないの?」  かわいいだろ、こんなん。 「ん、ああ」 「おすすめはあれ」  トゥイークが指さすから、言われた通りにブドウを採る。  荷物を置いたベンチに戻って、リュックからウェットティッシュを出す。 「食べる前に手、拭いて」  おれが手渡すと、トゥイークは素直に「うん」と手を拭く。そしてすぐにブドウの粒を一つ、房から取ると、 「頂きます」  と言って口に含む。 「種あるらしいから。皮と種、ここに入れてな」  ビニール袋の口を開いてベンチに置く。 「んー」  と返事しながら、トゥイークは皮を口から引っ張り出す。う。皮をビニール袋に捨てた後、唇をとがらせてぷっぷと種を吐き出す。  べっつに、狙ったわけじゃないけど、なんかエロいな、ブドウ。 「うまいか?」  おれが聞くとトゥイークはもう次のブドウを口に入れていて、無言で頷いた。また皮と種を吐き出すと、やっと 「甘い。あなたも食べなよ」  と言った。それもそうだな。トゥイークが選んでくれた奴だし。自分が採ったのを一つ食べてみる。 「すっっぱ!」  おれが声を上げると、トゥイークがははははは、と笑う。こいつ、わざと。 「おまえっ、これ食べ切らないと次の採れねーんだぞっ」 「ふふ、まあ、ブドウは上の方が甘いから、だんだんましにはなると思うよ」  まあ、食べれないほどじゃないから食うけどよ。 「なんでそういう意味ねえ意地悪するかなー」  文句言いながら酸っぱいブドウを口に運ぶ。 「だって悪魔だからね」  トゥイークが軽口みたいに言う。トゥイークから、はっきり悪魔だと言われたのが初めてで、冗談めかしてだとしても、心臓がぎゅっとする。 「……おれの知ってる悪魔は……もっと優しくて、親切で、甘い言葉と態度で人を誘惑する奴だよ」  あっちが嘘で、今おれをひっかけて笑ってるのが本当なら、それはそれでいいって思う。 「すっぱいブドウだって、おまえが選んだんなら、いいよ」  うあー!! なに言ってんだおれは。恥ずかしくなって俯いて高速でブドウを食べる。視界に入るトゥイークの手が止まってるから、ちょっと目線を上げると、トゥイークが赤い目をかっぴらいてた。 「トゥイーク、目っ、色っ」  小声で注意すると、あ? とトゥイークが手を目にやって、それを外した後は緑に戻っていた。 「ブドウ食えよ、生気ちゃんと補充しろ」  おれが急かすと、トゥイークは思い出したようにブドウを摘まんで、それから、おれの分のブドウを取り上げた。 「おい、こら」 「交換。ボクは生気さえ摂れれば、味はあんまり関係ないから」  と自分が食べてた分をおれに寄越した。なんなんだ。けど、トゥイークが吟味に吟味を重ねたブドウは確かに甘かった。  味は関係ないとか、あんなけ熱心に選んどいて、嘘だろ。 「一緒に食べればいいじゃん。そんで、次もおまえが二房選んで」  そう言って甘いのと酸っぱいのを交互に食べる。甘いのの後に酸っぱいの食べたら余計に酸っぱく感じる。  トゥイークは、酸っぱいの、酸っぱいの、甘いのって感じで食べてたから、酸っぱいのの方が先に無くなって、後は二人で甘いのを食べた。 「今度は二つとも甘いのだぞ」  釘を刺すと、トゥイークは、わかったよ、と言ってわりと迷いなく歩いていく。最初の見回りである程度目星をつけていたんだろう。  トゥイークは一房切り取ると、またすぐ歩き出して、 「これ」  とおれを促す。おれのトゥイークの隣に行って、ブドウを採る。 「白い粉がついてるやつが甘い。後、実が下がって実と実の間に隙間ができてるのが甘い」  トゥイークが真面目ぶった口調で言う。 「なんでそんなこと知ってんの」  おれが尋ねるとトゥイークは少し照れたような表情で 「こんなのは昔っからのことだから」  と言った。 「新しいことはあなたの方がよく知っているだろ。スマホの色々とか」 「そんななりで年寄り臭いこと言うなよ、おまえだってこの前、写真撮ってたじゃん」  あ、そうだ。 「お父さんとお母さんに写真送ろう」  ベンチのとこまで戻ってスマホを出す。 「へ?」 「やっぱまずい? おまえまたでかくなるかも知れないし、そういう証拠写真みたいなの」  トゥイークは少し考えて、 「あなたのスマホの中にだけならいいよ。帰ってからスマホで直接見せるのはいい。お父さんやお母さんのスマホに送っちゃうのは後々面倒なことになるかも知れないし」  と答えた。 「よし、じゃ、こっち寄って。ブドウ持って」  二人でベンチに座って、スマホをインカメにして、ブドウを顔の横に掲げたトゥイークの肩を自分の方に引き寄せる。どきどきする。もっとすげーことやらかしてんのに。 「楽しそうにしろよ」  おれが言うと、トゥイークはイーッと歯を出しておどけた顔をする。それをスマホの画面で見て、おれも笑ってしまう。いいや、これで。  シャッターを押す。カシャッと確かにおれとトゥイークが画面の中に収まる。 「気が済んだ?」  トゥイークが気の抜けた顔に戻る。 「んー」 「ブドウ、採れたて食べないと」  とトゥイークは早速ブドウに手を付ける。おれも自分が採ったのを食べる。今度はちゃんと甘い。  トゥイークが、一粒一粒、口に運んでは、皮を摘み取り、種を吐き出す。その指、その唇を動きを目で追ってしまう。 「食べてるとこ撮っていい?」  おれがスマホを構えると、トゥイークは少し眉を上げて、 「別にいいけど」  と言って動きを止めた。 「あ、違う。動画」 「え、なんで」 「お父さんとお母さんに見せるときに、動画もある方がいいかなって」  本当は撮りたいだけだけど。 「はー、そういうもん? まあいいけどさ」 「んじゃ、撮るな」  録画ボタンを押す。トゥイークは一粒ブドウを口に含んで、こっちをちらっと見る。 「なんか喋った方がいい?」 「あー、うん、そだな。ブドウうまい?」  おれが質問すると、トゥイークは皮と種を吐き出しながらぐっと親指を立てて 「おいしい。甘い」  と言う。 「っ、誰に連れてきてもらったんですか」 「ふっ、ユメツグお兄ちゃんです」  トゥイークは笑いながら次のブドウの粒を口に入れる。 「うれしい?」 「ん、感謝してます」  トゥイークは神妙に目を閉じて言う。無理やり連れてきたようなもんだけど、どうなんだろう。撮影用のリップサービスか。来てみたら案外楽しくなって来たとか。 「おれも、楽しい」  あ、「も」って言うの変か? 画面の中のトゥイークが瞼を上げて、笑う。なんか、心臓止まりそうになった。録画停止ボタンを押してしまう。 「もういいの?」 「うん」  スマホを置いて、おれもブドウを食べる。心拍数上がってきた。トゥイークにバレるかな。  結局、トゥイークはブドウ四房、おれは三房食べて、もう十分ってなったので、家へのお土産用のブドウを買って観光農園を出た。  駐車場に停めていた車の中は外より暑くなっていた。何回かドアを開け閉めして、空気を入れ替えてから、エアコンの風量を最大にして出発する。  ここから。  観光農園を出て、家の方に向かいながら、思い定めていたことを実行する。

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