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邂逅

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晴道ワンドロワンライのおまとめ本に載せるものです。 実験的に記載してみます。 サンプルはpixivのツリーに全話の前半が記載されています。 https://www.pixiv.net/novel/series/1522050 ****** (つ、疲れた……。何故に貴族という存在は自分勝手で嫉妬深く我儘なのだろうか。占術の依頼であったはずなのに、いつの間にやら夫婦で喧嘩をし始め、その仲裁をしなければならぬとは思いもよらなかったぞ。いや、まあ、北の方が妾が誰なのかを占えと言ってきた時点で嫌な予感はしていたのだ。ただ、報酬が良かったから受けたが、北の方が大暴れするのを宥めるのは骨が折れた。とりあえず、依頼に対する報酬以上の物を夫から貰えたのだ。どさくさに紛れて報酬の件が流れなかったことは僥倖であるだろう。多分)  道満は依頼の報酬が良かった点だけを考えるようにする。そのようにすれば、心中の疲労は消えないものの増えはしないからだ。  両手に多くの報酬を抱え、平安宮の西にある廃寺に向かう。ここの僧侶は既に亡くなっており、後を継ぐ人間もいなかったらしい。廃墟になりかけていたので、勝手に住み着くことにしたのだ。誰もいない寺を式神を用いて修復し、改善していく。そのように過ごしながら、別途生活に必要な物を市で揃えていくのは楽しく思えた。播磨では寺に住んでいたため、共同生活が基本となる。自分だけの寺を手に入れられ、道満は解放感に満たされていたのだ。  今の京での生活を振り返りながら歩いていると開諸門鼓の音が聞こえた。これから貴族達が起き、身嗜みや占術等を行い、参内するのだろう。先程の壮絶な夫婦喧嘩を行った貴族は休まらないうちに参内することになるだろうから、疲労困憊のまま一日を過ごすのかと思うとやや哀れである。 (結局は北の方の勘違いであったからな……。夫は務めが忙しくて帰りが遅かっただけだったのだが、その言葉を信じられないのならば夫婦として共にいる意義はあるのだろうか?)  そのような疑問が浮かぶ。だが、自分の生涯において誰かを娶る気はないため、無意味な思考だと疑問を放棄する。歩いて寺に向かいながら、昔のことを思い出す。  上京したばかりの頃は衆生の依頼をこなし、その報酬でどうにか暮らしていた。食料は式神に寺の空き地に畑を作らせ、そこで野菜を収穫している。また、健啖家でもあるため、肉が欲しくなると山に猪や魚を捕りに行くことも多々ある。狩りで得た物はその日に食べ、残った部分は乾物にする。食以外は慎ましく暮らすのが道満の今の生き方である。  衆生での依頼をこなしているうちに、下級貴族や中級貴族からの依頼も入ってくるようになった。最初は占術が多く、徐々に呪詛の依頼も増え始めた。妖異を祓うための術は得意であるが、誰かを陥れるための呪詛はあまり使いたくはなかった。なにせ、上京した目的はある人間との出会いと衆生を救うことであるからだ。それでも、報酬は生きていく上で必要であり、今後の術式の研鑽等を行うためにも欠かせないと割り切ることにした。  自分は播磨の出身であり、その中でもいっとう能力の高い法師陰陽師である。上京する前のことである。師である穏健な僧へ挨拶しに行った際に、師が申し訳無さそうに、 「儂の秘術を伝えた所為で髪の半分を白くさせてしまい、すまない。折角の綺麗な黒髪だったのになあ」 「いえいえ。お師様が悪いことは何もございません。これは拙僧の未熟さの証にて。また、お師様からの教えを会得した証左でもあります。ですから、拙僧はこの白髪は存外気に入っておりますよ」  右半分だけ白髪になった髪を指で弄う。その髪の艶や張りは左半分の黒髪と遜色はない。師はまじまじと顔を見つめてくるため、少し居心地が悪くなる。少し視線を逸らせると、 「こら、道満。視線を外すでない。これから上京し、お前は様々な人間から奇異の目で見られるだろうから、今のうちに慣れておけ」 「そう仰られても……」  思わず言葉を濁してしまう。尊敬する師と衆生や貴族とでは視線の圧が異なるのだ。師は仙人であり、そのような存在に遭遇することは滅多に無いだろう。師と話すのは好んでいるが、このようにじいっと見られるのは居心地が悪くなってしまうのだ。 (ンンン……。お師様のことは信頼しておるが、このように言われるとは儂のことをまだまだ子供扱いしておるのだろうな)  道満は成長すると他の男に比べ長駆であり、筋肉もかなり付いている。陰陽道や天文道等の陰陽師として必要な学問以外にも雑務をこなしているうちにこのような体躯になったのだ。また、誰に貰ったのかとうの昔に忘れた箱に干し肉や干魚等がいつの間にか補充されており、腹を空かすとそれを食べていた。僧でありながら、肉類を食べることは戒律に反することだ。師でもこのことは知らないはずだ。師は寺の稚児に手を出すことのない存在であるため、敬える親のような存在なのだ。  俯いて考え込んでいると、師はわしゃわしゃと自分の頭を撫で回し、慈愛を込めて笑いながら慰めの言葉をかけてくる。 「そのように落ち込むでない。儂も言い過ぎたかもしれんな。なに、道満ならば上京してもやっていけるとも。道満は衆生への情らしきものがある。何より、声音や見目も良く、物腰も柔らかで色香がある。更に言えば翳りもある」 「それが上京して上手くいくのとどう関係があるのです?」  当然の疑問に師はにっかりと笑いながら応じる。 「貴族の女性達がお前を気に入るということだ。彼女達は顔と声の良い僧の説法を聞いたり、陰陽師に占わせたりするのが大層好きであるからな。道満は必ず気に入られるとも」 「はあ、そうですか」 「んんんんん? 儂の言葉が信用できんか?」 「いえ、そのようなことはありませぬ! ただ、自分が目指しているものと異なるので戸惑っておりまする」 「そうかそうか。なに、直に慣れるだろうよ。お前が上京するのは以前話していた星空に浮かんでいるあの魂を持つ存在に会うためだろう? それならば、お前の名を知られるようにすることが近道だ。そうすれば、必ずや会えるとも」 「……本当に会えますかな?」  思わず零してしまった心細そうな声音に師は景気付けるかのように溌剌と応じる。 「ああ、会えるとも! 儂の占いではそう出ている! だから、安心して行ってこい、道満。この地は他の法師陰陽師で対処する。仮に、お前が都落ちすることがあればこちらに帰って来い! そのときは儂の小間使いとして雇うからな!」  呵呵と笑う師を見ると、どことなく気が楽になった。それからすぐに道満は上京した。

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