せっかくなので過去作でFavFanお試し。少年と人外の少女のお話(一応R-18) 不思議な魔力でRTすると続きが読めるらしいぞ、再掲だからPixivでも読めるけど

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雪の糸

　自分の浅い息遣いだけが聞こえる。
　体が動かない、何か密着する寝袋みたいなものに包まれていて手も足も出せない。それに酷く疲労を感じて億劫だから、首だけ捻って周りを見渡す。室内は学校の教室ぐらいの広さで、薄暗いがちょうど頭頂部の方向の壁に隙間があって陽光が差し込んでいる。どうやらそちら側の壁に大きな両開きの引戸がついているらしい。
　当たり前だけど、普段寝泊りしている部屋じゃない。どうしてこんな場所にいるのかという疑問について考えようとしたところで、声が降って来た。
「やっと起きたか」
　ふっと現れた女の子がこちらを覗き込みながら喋っている。それに対して、何も言葉を返すことができない。気配や物音さえなく急に姿を見せた彼女を訝しんで―― ではなく。
　ただただ黙っていた。全身を包む白い布――いや、これは糸だ――に口までも塞がれてしまったように。じっと目の前の少女の顔を見つめていた。
「礼儀知らずだな、命の恩人を前に名乗りも感謝の言葉もないとは」
　嘲るように、ただそれでいて愉快そうに少女は口角を歪めた。
「助けてくれなんて言ってないとでも？ そうはいかないよ、目の前で死なれちゃ寝覚めが悪い」
　寝覚めが悪くなるというのは私にとって死活問題でね―― 言葉の意味も、少女の正体もわからないまま、それでもたった一つだけ、自ずと悟っていることがあった。
　どうやらここは、この少女は、外側だ。
　どこまでも転げ落ちてやっと。己を囲って閉じ込めて、押し潰そうとしていたものが綻びを見せた。鍵はもう、そこにある。
「まあ、いい。どうせ動けるまで回復したら人家の傍に捨ててくるつもりだったんだ。だんまり決め込むならそのまま寝てしまえ」
　ここまで一度も口を開いていないのは、この少女を最初に見た瞬間から無意識のうちに理解していたせいだと気付く。最初に発する言葉、それがどうしようもなく致命的に大事な何かを決めてしまうということを。
　ただ黙っていることは容易い。そうして彼女に会ったことも、この異常なすべてを忘れて、閉ざされた部屋の中に戻ることもできるのだろう。その後は？ 雪と息苦しさに潰されそうになりながら、誰かの続きを続けるのか。
　だったら――



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雪の糸

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