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夜に沈む/トワ時

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光と闇が交錯する黄昏時。 夜が世界を覆い、逢魔が時とも呼ばれるこの時間。 日没前までに家に戻らなければならない俺は急いで家路を戻っていた。 「あら、リンク、いいところに」 「ウーリさん」 籠を片手にウーリさんは僕を呼び止めた。 「今日作った分、少し余ったからお裾分けしようと思ったの。良かったら食べて」 「ありがとうございます」 有難く受け取って、早足で村外れの家に向かい、梯子を半ば駆け上がるようにして家に入る。 悪い予感というのは往々にして当たるもので、机上には見慣れない字で『さようなら』とだけ書かれた紙が置いてあった。 俺は紙を握り締めながらフィローネの森に繋がる吊り橋まで走った。橙色の光の中、幻影のようなその中を夢中で駆ける。 「先代...!」 こがね色の髪を風に弄ばれているその人はそこに立っていた。沈んでいく陽と重なって表情がよく見えない。 日没前、不定期に先代はああやって紙ひとつを残して逝こうとするのだ。もし、俺が間に合わなかったら、本当に逝ってしまそうで、怖くて怖くてたまらない。 「帰りましょう」 泣きそうになりながら、俺は手を差し伸べた。 先代は時折何かに話しかけようとして、その先に何も無いのに、そこを凝視するきらいがある。その何かに向けた、恍惚とした、恋うようなそんな顔が、俺は大嫌いだった。その視線の先には何が、誰がいるんですか。誰が、何が貴方にそんな顔をさせるんですか。 1度だけ、"それ"が貴方が逝きたい理由ですかと尋ねたことがある。そうしたら先代は、ううん、ただ、信じたいものが信じられないから、かなと答えて小さく笑ったのだった。 俺は貴方を信じたい。でも、でも、やはり貴方は俺じゃない何かを、誰かを見詰めている。心を開いてくれない。心が蝕まれているのに知らないふりをして笑う。貴方は温度のない青で俺を見る。薄い唇が弧を描けば俺の心臓は跳ねる。殆ど口を付けない貴方の食事を自分の分と一緒に作り、残されたものをやりきれなさと一緒に捨てる。貴方は黙ってそこにいるだけ。こうやってまた1日が過ぎる 。また心が1度死ぬ。貴方を信じたい。けれど貴方は何も教えてくれない。俺よりも恋うているものがある。冷えていく指先を温めてくれることも無い。ああ、信じたいのに、信じたいのに。どうすれば良い?何が足りない?逝きたがる貴方をどうしたら留められる? 「終われば、いい......?」 気付けばそう零していた。色を伴った光が窓から射し込んでいる、そんな時間だった。隣に気配がして、見上げると、斜陽の光の中、貴方が微笑んでいた。初めて見た、笑顔だった。 頬が濡れていたのに気付き、泣いていたことを知る。先代は俺に手を差し伸べた。俺は迷わずその手を取った。夜に溶けていく昼の中を、手を繋いだまま、並んで歩いた。夢の中を歩いているように穏やかで綺麗な世界。歩く度に重荷がおりていくような気がする。ああ、身体が、軽い。 「いこう」 西陽に照らされながら、真っ直ぐに俺を見て先代は言った。 2人で黒へと1歩踏み出す。 「貴方となら、」

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